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黒字経営の道しるべ:適切な労働分配を考える

2023年12月13日

会社の稼ぎ出した限界利益はさまざまな用途に配分しますが、その重要な配分先である人件費が限界利益に占める割合を「労働分配率」といいます。物価上昇や人手不足等で賃上げの機運が高まる中、「適切な労働分配率の管理」はますます重要になっています。(全6回連載)

労働分配率」を他社と比べると...?

「労働分配率」は次の算式で求められます。

労働分配率(%)=人件費/限界利益×100

人件費には、賃金、給与、賞与、役員報酬、法定福利費等が含まれます。自社が稼いだ付加価値(限界利益)に対して、人件費がどの
程度を占めているのか確認してみましょう。
労働分配率は業種によって差があります。
「令和5年版TKC経営指標(BAST)」から業種ごとの黒字企業の平均値(売上規模:全企業)を挙げると図表のようになります。自社と比較してみましょう。

【業種ごとの労働分配率(黒字企業の平均値)】
情報通信業:61.9%
製造業、宿泊業・飲食サービス業:54.1%
建設業:53.3%
運輸業・郵便業:51.9%
小売業:50.6%
卸売業:49.0%
農業・林業:38.9%
※出典:「令和5年版TKC経営指標(BAST)」

適切な労働分配率」はどう管理する?

役員報酬を含む人件費の原則は「労働分配率をおさえながら1人当たりの人件費を高く」することに尽きます。
人件費のうち、役員報酬については限界利益額に占める役員報酬総額の割合をあらかじめ決めておくと良いでしょう。
人件費を増やしすぎれば赤字に転落するおそれもあります。そのため自社に合った適切な労働分配率.給与水準を保つことは大切です。人件費に多くを割けない場合に納得感のある給与水準とするには、
①年収の時給換算で生産性アップ
②柔軟な勤務・給与体系の設定
③利益を公平に分配するルールづくり
―といった具体策があります。

具体策①年収の時給換算で生産性アップ

年収を、残業時間を含む年間労働時間で割って時給に換算してみると、適切な給与水準を考えるヒントになります。
例えば、年収500万円のとき、年間労働時間が2000時間なら時給換算すると時給2,500円ですが、2500時間では時給2,000円になってしまいます。同じ年収でも、業務の効率化等で労働時間が短くなれば、労働環境が良くなり、かつ従業員にとってより納得感のある給与水準になります。図表を参考に生産性ァップの余地がないか検討してみましょう。

【生産性アップのポイント】
・工場レイアウトや生産の段取りの工夫等で手持ち時間を減らせないか
・今日成し遂げるべきこと、今月得るべき成果が従業員ごとに明確になっているか
・業務日報や生産日報等で、業務の進捗管理を行っているか
・DXの推進等によって業務の効率化を図る余地はないか

具体策②柔軟な勤務・給与体系の設定

時期によって労働時間の差が大きい場合、変形労働時間制の導入で総労働時間を少なくできることがあります。1年単位、1か月単位のほか、特定の業種(従業員数30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業)では1週間単位の非定型的変形労働時間制の採用が可能です。また、一般的な「固定給+残業代+諸手当」以外に、歩合給や日当制等を取り入れ、柔軟な給与体系にすることもできます。
業務の量や内容を勤務時間や給与へより細やかに反映することで、適切な労働分配率を維持することが可能になります。

具体策③利益を公平に分配するルールづくり

適切な労働分配率を維持することとともにく利益を従業員に分配するルールづくりも大切です。
図表を参考に労働意欲の向上につながる給与体系の整備に取り組みましょう。

【給与体系を見直すポイント】
・仕事の難易度と担当者の人件費とは見合っているか
・従業員1人ひとりの業績への貢献度を評価する明確な仕組みがあるか
・頑張った人とそうでない人とは処遇面で具体的にどんな差がでるか
・理想とする具体的な社員像と、現実とのギャップを明確に伝えられるか
・財務や販売管理等のデータを人事考課に活用しているか

人件費の目安をつくり、分配のルールを定めることは、より安定的に会社を運営していくために欠かせません。
今後も増加が見込まれる人件費。適切な水準で無理なく支払い続けるためにも、労働分配率の管理とともに、原資となる限界利益を増やす打ち手の検討にも取り組みましょう。

【参考】「TKC経営指標(BAST)」要約版・速報版を活用しましょう

「TKC経営指標(BAST)」要約版および速報版がwebで一般公開されています。速報版では、「建築業」「製造業」「小売業」「宿泊業・飲食サービス業」「サービス業」から合計206業種について、平均売上高や限界利益率、人件費、労働分配率を確認することができます。より詳細な同業他社比較を行いたい場合は、当事務所にご相談ください。